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虎穴で飼われる仔は虎をのぞむ

『虎穴で飼われる仔は虎をのぞむ』サンプル(※本は縦書きのため、一部サンプルと記号等が異なります。) 「境の歳に飼い飼われる仮初」(書下ろし)    七  ベッドに横になる。潤滑剤で濡れた脚の間が少し冷たくて、変な感覚だ。早く虎哥が来てくれないか。体を横にして、枕の匂いを嗅ぐ。嗅ぎ慣れた匂いがして、腹の奥がむず痒い。ふうと息を吐いた。そわそわしてどうにも落ち着かない。  外では雨が降っている音が聞こえる。雨脚は強い。ざあざあと地面や屋根を叩き、窓をた、た、た、と打つ音が聞こえている。雨が降る夜に一人でいるのは好きではないけれど、今は待っていれば虎哥が来てくれるから平気だ。でも、心臓が高鳴って落ち着かないのは雨のせいだ。これから虎哥が抱いてくれることに緊張して焦っているのではない、と思いたい。恰好をつけてそう考えながら、顔を上げてベッドの隣にある棚を眺める。ここに置いてある本は、前に見たときと変わっていない。  どんな本を読んでいるのだろう。少し気になって手を伸ばしかけてみた。本自体に興味はないと気がついて、途中で手を戻した。今の状況、つまり、抱かれるのに緊張していないと見栄を張っているみたいで、格好悪い。ベッドで仰向けになって、虎哥みたいに冷静でかっこよくなんて全然なれない、と溜め息をついた。  そのとき、ドアがノックされた。ぱっと体を起こして、ベッドから立ち上がる。腰にかけていたタオルを掴んで、腰に巻いた。急いでドアに向かう。 「入ってもいいか」  ドアの向こう側から聞こえた声に開けると、虎哥は驚いたのか軽く息を吐いた。今日も浴室に入る前と、ほとんど変わらない格好だった。スラックス、シャツ、上着の組み合わせで、このまま外に出られる。これから誰かを抱く格好には見えない。これが、虎哥が俺との間に作った線だ。 「待ってた。早く来て」 「わざわざ迎えに?」 「だって、楽しみだったから」  虎哥の手を取ってベッドに向かう。すると、虎哥が後ろから焦るなと言った。わずかに笑いが含まれたその声に、俺は無性に気分が上がって、ベッドに転がって仰向けになった。巻いていたタオルを外して脚を広げる。 「もう準備した。早く」 「急かすな。念には念を、いつもそう言っているだろう」  確かにそうだ。仕事ではちょっとした油断で足元を掬われる。  手間は惜しまず、入念に根回しをして、不利な立場にならないよう立ち回れ。俺以外の兄貴たちもよく言われている。ベッドに置いていた潤滑剤を虎哥に手渡して、目を閉じた。膝を押されてさらに脚を広げられた。濡れた指が解した隙間に触れる。少しだけ体に力が入った。息を吐いて力を抜く。 「ん……っ……」  指が少しずつ入ってくる。いつも見て、触れている、虎哥の指を思い浮かべる。無骨で、でも、優しく触れてくれる、武術が馴染んだ手と指だ。中を広げるように指が曲がり、湿った音が響く。段々指が増やされていって、体が熱くなっていく。呼吸が乱れて腰がぴくぴくと揺れかける。中を広げる指に、解された肉が絡み、締めつけてしまう。 「虎哥、早く……お願い、もう大丈夫だから」  指がゆっくりと抜かれていった。緊張と安堵という正反対の気持ちが混じって、妙な居心地だ。息を吐く。酒をほとんど飲んだことがないから酔う、酩酊する感覚は分からないけれど、そういう気分に似ているかもしれない。 「十二」  静かな声で呼ばれる。雨の音をくぐり抜けるような声だ。  好きな声だ。寂しそうで、今にも消えてしまいそうにも聞こえるのに、はっきりと耳に届く。そこに虎哥がいると分かる声。とても心惹かれる。テープに録音していたなら、俺は鍵がかかる引き出しにしまい込んで誰にも聞かせない。  目を開けた。しばらく閉じていたせいで、明かりが眩しい。 「どうしたの」  ようやく目が慣れてきた。目の前に虎哥の顔が見える。  見上げた顔は、いつか見た表情と似ていた。そうだ、俺の子にならないかと、九龍城砦で言ってくれたとき。そして、その前に売人から守ってくれたとき。  俺を心配している。大丈夫かと窺っている。  大切なものを見る眼差しは、きっとこういうものだ。そう信じたくなる目だ。 「十二、本当にいいのか、俺が相手で。まだ戻れる」 「どうしてそんなこと言うの」  聞かなくても、虎哥の気持ちは分かっている。俺と虎哥の年は親子くらいに離れている。俺を引き取ってくれたときも、養父として引き取ってくれて、本当の親のように面倒を見てくれた。親であり、今は大佬でもあるのに、一線を越えて体の関係を持つというのは、やはり躊躇うはずだ。まったく躊躇わない方がおかしいのだ。  虎哥は子どもに手を出したくない、傷つけたくないと考えてくれている。こうして何度も俺に聞いて、確かめてくれて、抱いてほしいと頼んだ誕生日のときも、優しく諭してくれた。その気遣いを分かっていながら、俺は、それでも、虎哥に抱いてほしい気持ちが抑えきれなかった。今でもなぜ抑えきれないのか、虎哥への想いがどういう好きなのかすら、よく分からない。 「俺の答えは変わらない。虎哥に抱いてほしい」 「あと少ししたら、俺以外の好きな相手ができるかもしれない。決断を焦らずに、何年か待ってみてもいい。お前は、まだ若い」 「嫌だ、聞きたくない」  泣きそうだ。首を何度も横に振る。数日だって待ち遠しかったのに、さらに何年か待つなんて。考えたくない。 「十二、よく聞け。俺は大人で、お前は子どもだ。俺はお前に聞いて、確かめないといけない。無理に抱きたくない」 「知らない、そんなこと。俺は大人だ、子どもじゃない……虎哥と同じ、大人だ」  腕で顔を覆う。喉が痛かった。  手首を掴まれて、シーツに押さえつけられた。  雨の音が耳元で聞こえた気がした。  少し怖かった。無理矢理には何もされないと経験で知っていても、虎哥は強くて俺は敵わない。抱くのを拒絶するのも、俺の意思を無視して強引に抱くのも、虎哥が本気を出せばすべて決められる。  でも、離れたくなかった。  虎哥になら、何をされてもいい。 「俺みたいな年嵩を好きになるなんて、悪いことをした。若いうちは、勘違いもよくあることだ。決めるには早い。もう一度よく考え直してみろ」 「勘違いじゃない、本当に」  目の端から涙が伝い落ちた。 「初めて会ったときと比べれば大きくなったが、お前はまだ若い。俺から見ればまだまだ子どもだ。可能性がいくらでもある。俺くらい歳を取ったやつに、若者を付き合わせたくない」 「年の差なんて俺には関係ない。信じて、虎哥。本当に好きなんだ。ただ、傍にいたいだけ。俺がまだ子どもだって、これから何年経っても、虎哥にとってはずっと子どもなんだって、本当は分かってる」  鼻を啜る。喉から胸にかけて、焼けるように熱くて、痛い。涙がぽろぽろと落ちていく。 「でも、好きなんだ。もっと触ってほしい、手をつなぎたい、キスしたい、抱いてほしい。初めては全部虎哥がいい。一四のときから、ずっと考えてた。嘘じゃない、変えようとしたけど、変えられなかった」  手首を掴んでいた手が離れた。  大きな手のひらが頬を撫で、涙を拭ってくれる。  虎哥の顔が近づく。唇に煙草の匂いがした。乾いた唇が俺の唇に重なっている。温かくて、柔らかい。髭が擦れてくすぐったい。いったい何が起こったのか、すぐには分からなかった。 「勘違いだったか、これで分かるか」  そう言われてやっと、虎哥がキスをしてくれたこと、今は既に顔を上げていて俺の答えを待っていると理解する。頭がぼんやりしそうなくらい熱くて、もっとキスしたい、早く抱いてほしいとしか考えられなかった。 「虎哥、勘違いじゃない。もっとしたい、お願い」 「分かった。後悔しないといいが」  ベルトが外される音がした。よかったと安堵すると同時に、脚を抱えられる。硬いものが脚の奥の隙間に触れた。腰が小さく揺れて、いつの間にか隙間がひくひくと動いて昂りの先に吸いついていた。 「虎哥、入れて、後悔しないから」 「痛いか、嫌になったらすぐに言え」  何度も頷いた。心臓の音が耳の奥でうるさいくらい鳴っている。緊張している。手に汗が滲む。 「ぐ……ぅ、ぁ゛っ……っ、ぅ……!」  大きい。肉が押し開かれていく。鈍く確かな圧迫感は強い異物感を伴っている。熱いものが体内に少しずつ埋まっていく。  目を見開く。腰が震える。つながりたい、触れたい。すべて入れてほしい。でも、苦しい。頭を振って痛みを紛らわせる。荒い息を繰り返し、落ち着かせる。 「ぃ゛っ、ぅ……! くっ、う゛ぅ、……」 「苦しいか? やめるか」 「やだっ、して……平気、だから」  虎哥が俺の手を取った。手は下の方に導かれて、熱いものに指が触れた。  どくどくと脈打っていて、硬い。さらに虎哥は手を動かす。自分の指が、虎哥の昂りが埋まっている境目に触れた。広がった縁が太い昂りを咥え込んでいる。 「まだ先が入っただけだ。さらに苦しくなる」 「平気だから入れて、全部……俺、虎哥としたい」  むしろ痛みを感じると、虎哥を受け入れていることが確かに分かって一層欲望が増していく。体が焼けるような快感と痛みの区別がつかなかった。興奮が抑えきれなくて、ぎこちなく腰を振ってしまう。虎哥を必死に見つめる。すると、俺を見下ろしていた虎哥は深い溜め息をつき、俺の手を離す。そして、腰を掴んだ。 「すまない、十二」  どうして、謝るんだろう。俺は嬉しいのに。苦々しそうに目を細める虎哥に、大丈夫と言おうと口を開く。 「あ゛ぐっ……う、う゛っ、が……ぁ゛っ!」  濁った声が出る。熱いものがさらに入ってくる。腰が小さく揺れて、腿がびくびくと跳ねた。  仰け反って必死に呼吸をする。昂りが中に擦れる。体を割り開かれるように、虎哥を受け入れている隙間が限界まで広げられていく。  でも、気持ちいい。腹の奥が熱い。  手探りで、腰を掴んでいる虎哥の手を握る。 「もっと、虎哥……! お願い、離さないで」  受け入れるのさえきついのに、興奮して昂りを飲み込んだ肉壁は収縮して、さらに締めつける。痛いくらいに締まる中を、一気に昂りが貫いた。 「あ゛っ……! う゛あ、あっ……!」  腰がぶつかり、肌が重なる。つながった、虎哥に抱かれている。  鈍い痛みが下腹にずしりとのしかかる。でも、この痛みでさえも、今はつながっている実感になって、より興奮してくる。俺の初めての相手は、虎哥だ。もう誰も俺を汚すことはできない。 「虎、虎哥、……俺、嬉しい」  俺の腰を掴んでいる虎哥の手を引っ張る。痛みや興奮で手が震え、力がうまく入らない。そのせいで、弱々しい手つきだったけど、虎哥は腰から手を離して俺の好きなようにさせてくれた。大きな虎哥の手を自分の顔にまで持ってきて、手のひらに頬を擦り寄せる。 「好きだ、虎哥、ずっと好き。離さないで、傍にいさせて」 「俺は離さない。お前の好きにすればいい」  額に軽く口づけられる。頬が緩んだ。虎哥は、昔から俺に好きなようにさせてくれる。一緒に眠ってくれて、武術を教えてくれた。深夜に起きたときは夜食を作ってくれて、日中に虎哥が家にいるときは隣で勉強させてくれた。  恋人みたいな好きとは違うかもしれないけれど、虎哥はこうやって俺を大切にしてくれた。俺が大好きな虎哥の感情だ。 「動いてもいいか」 「うん、虎哥、早く」  そう言って、懸命に腰を持ち上げた。わずかに弾んだ溜め息をついた虎哥が、腰を引いた。そして、また奥へと突き入れる。 「う、うっ……、はぁっ……く、ぅ……」  抜けた昂りを求めるように狭まった肉壁をすぐにまた押し開かれる。その感覚は、虎哥に身を委ねて、独り占めされているようで、心が満たされていく。  苦しいのに何度も腰を上下に振り、虎哥を求める。腹が熱い。焼けるような快感がびりびりと腹の奥、腰から背中へと走り抜ける。  昂りが引き抜かれる。さっきよりも長く抜かれていく感覚に細く息をつく。  縁の方で、昂りの先が引っかかる。途端に抜けてほしくないと中が強く締まって、頭をベッドに押しつけ呻く。浅いところを昂りが擦れると、甘えたくなる優しい熱が広がり、奥を突かれる快感への期待で全身が震えた。喘ぎながら腰を持ち上げると、一気に奥まで突かれた。 「ひっ、ぁ……、ん、あっ……虎哥、っ――!」  腰が跳ね上がり、がくがくと揺れた。口が開いて甲高い声が出る。  奥が熱い。腹筋が細かく波打って震えている。  呼吸をするたびに中が締まって、苦しいくらいに気持ちいい。 「虎哥、そこ、熱い……もっと……」  いつの間にか、虎哥は俺の背中と頭に腕を回し、抱きかかえるようにしていた。感じる重みと体温が強くなる。虎哥に俺のすべて差し出して、所有されているようだと胸が満たされる。 「ここがいいのか」  耳元で普段と同じ声が聞こえた。でも、いつもとほんの少しだけ違って、熱を含んだ吐息が耳を掠めた。きっと、虎哥も感じてくれている。嬉しくなって、腰を捩って昂りを奥の方に押しつける。 「うん、奥がいい、あっ、ぁ……そこっ……ひっ!」  小刻みに腰を揺さぶられて、奥を何度も突き上げられる。つながっているところから水音が小さく響くたびに、熱い快感が腰の奥で爆ぜる。  背中と首を腕で支えられて、虎哥の体に身を委ねていると、自分の身体がすべて虎哥のものになったみたいで胸がいっぱいになる。力が入らない両腕で、必死に抱きつく。気持ちよくてくらくらする。  虎哥が首に顔を寄せてきた。どうしたんだろうと顔を向けようとしたとき、唇が首に触れ、湿った吐息と一緒に首の後ろを軽く噛まれた。  同時に、ぐんと強く押し込むように腰を押しつけられ、奥深くを容赦なく突き上げられた。 「んぅ、うっ、……ひ、ぅあっ……、ああっ! 虎哥、虎哥――!」  喘ぎ、ほとんど叫ぶように声を出す。腰が虎哥の体の下で大きく揺れて、押し寄せる快楽に飲まれる。昂りを飲み込んだ肉壁が痙攣して、何度も昂りに吸いついた。  目を開いても、閉じても、眩しかった。瞳孔が開いている。目の端から涙が伝い落ちた。  腰を捩って激しい快感を少しでも逃そうとする。  虎哥にしがみつくと、優しく背中と頭を撫でてくれて、首の後ろを何度も甘噛みされた。動物の虎にかわいがられたら、こんなふうにされるのかもしれないと、激しい快楽で眩んだ頭で思った。  そっと、首から歯が離れ、背中と頭を撫でていた手も離れていく。虎哥は体を起こして、涙で濡れた俺の目元を指で拭った。 「大丈夫か」  深く息をつき、小さく頷く。雨の音がまた耳に届いてくる。少しずつ興奮が落ち着いてきている。 「気持ちよかった。すごく。虎哥、ありがとう」 「やめろ、こんなことに礼を言うな。俺は」 「最低な親だ、なんて言うつもり?」  そんなこと言わないでと首を横に振ると、虎哥は渋々とだったけれど頷いた。 「もう抜いてもいいか」 「あと少し待って、まだ体が熱い」  虎哥は視線を落として、たちまち横に顔を向けた。何かあったんだろうかと、頭を起こして自分の下腹部を見た。  緩く持ち上がった自分のものと、腹に飛び散った先走りと精液。恥ずかしくて俺も慌てて目をそらす。自分が達して吐き出した体液に、いつの間にこんなに出したんだと恥ずかしいのもあったけれど、白く濁った精液に濡れた腹筋に薄っすらと虎哥の昂りの形が出ていたのを見て、また欲望が疼いてしまいそうだったからだ。  頬や首、耳まで熱くなっていく。興奮を抑えようとすればするほど、まだ中に埋もれている虎哥のものをより意識して感じてしまう。腰を振って、昂りを奥のいいところに擦りつけたい。中を締めて緩めるのを繰り返して、虎哥のものを感じたい。 「どうした、腹が痛いか」 「違う、痛くない。大丈夫……でも、虎哥はまだ出してない?」 「だったら、何だ」  ふんと鼻を鳴らした虎哥に、いつの間にか口元がにやりと笑った。そう言うってことは、出していない。 「中に出して。初めては全部虎哥がいい。俺を抱くのも、中に出すのも、全部虎哥が初めてだ」 「断ると言っても、聞く気はなさそうだな」 「ああ、ない」 「……続けるが、コンドームを用意する。待てるな」 「そんなのいらない」  頭上から大きな溜め息が聞こえた。呆れている。どこかで育て方を間違えたか、そんな心苦しそうな言葉が続いてもおかしくなかった。 「俺はこういうこと(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)も教えたはずだ。馬鹿を言うな、ふざけるな」 「ふざけてなんかいない。犯すとき、コンドームをつけるやつはいない。だから、虎哥、中に出して。他のやつが初めてなんて嫌だ」  下腹部に手をあてて、体液で濡れた腹を撫でる。中に挿入されている昂りで盛り上がったところを指でたどり、何度か軽く押した。虎哥は顔をしかめて俺を睨む。細められた目は鋭く冷たい。でも、俺をどう扱うおうか迷っている。赤くなった眦と白い義眼が対照的で、普段見ない様子に色気を感じて背中がぞくぞくする。 「お願い、虎哥。だめ? 俺がまだ子どもだから?」  できるだけ負担に思わせないよう軽やかに笑い、してくれないのと首を傾げて腰を持ち上げる。こんなことをしても、俺は大人の魅力みたいなものは出せなくて、どうせ子どもがやることにしか見えないだろう。けれども、腰を上下に振って、じっと虎哥を見つめる。呼吸はまた乱れてきて、熱を含んでいる。  自分がまだ子どもだとしても、どうしてもやってほしい。  かすか溜め息が聞こえた。額にかかっていた髪を後ろにかき上げられる。頭を優しく撫でられた。 「十二、すまないが、付き合ってくれ」 「俺こそ、させてごめん。ありがとう、虎哥」  虎哥が屈み込んできて、額に柔らかい唇が触れた。挿入されている昂りがさらに奥へ沈み込む。鈍い痛みを孕んだ重い快感がまた腹の奥で疼き始める。背中に両腕が回されて抱き上げられる。何をするんだろうと、快楽であまり回らない頭で考える。  背中がベッドから離れた。咄嗟に虎哥の首に両腕を回し、しがみつく。 「ん、ぅっ……あ、あ゛ぁ……! 虎哥っ……」  腹に昂りが突き刺さったみたいに、じくじくとした痛みと快感が広がる。熱い。  でも、嬉しかった。目の前には虎哥の胸元がある。そこに寄り添うようにもたれかかる。腰が触れ、つながっているところが熱い。 「痛いか」 「少しだけ。それでも、気持ちいい。抱っこされてるみたいで嬉しい」  顎を虎哥の肩の上に置いて答えた。  背中を支えている手が、さらにぎゅうと抱きしめてくれた。その手つきは俺が小さかった頃とまったく変わっていない。嬉しさが抑えきれなくて、笑ってしまう。呆れたように虎哥もふっと笑って、徐々に腰を動かし始める。 「ぁ、ぁ、んっ……うぁっ……! んんっ、奥、あたってる」 「ここがいいんだろう」  腰を抱き寄せられて、とんと突き上げられる。思わず仰け反った。引き攣った声が出て、腰が小刻みに震えた。 「そう、だけどっ……! あっ、ひ……! 深すぎる……奥、熱い……」  胃の底が圧迫されているんじゃないか。そんな想像が頭を過ぎるくらい、深いところを昂りの先が穿ってくる。慣らすまでの指はおろか、さっきの挿入では触れられなかったところだ。焼けるように熱く、突き上げられるたびに腰の奥から痺れるような快感が込み上げてくる。背中から首がぞくぞくして、頭が真っ白になる。 「ぅ、ああっ……んく、ぅ゛っ……! 虎哥……」  虎哥にしがみついて、首元に顔を埋める。強すぎる快楽に腰ががくがくと揺れてしまって、自分で体を支えられるのは腕だけだった。脚に力が入らなくて虎哥の脚と腰の上にへたり込んだせいで、さらに挿入が深くなる。  昂りを受け入れている中は蕩けるように熱く、虎哥のものを飲み込んで形が分かるくらいきつく締め上げている。快感を得れば得るほど、さらに肉壁がきつく昂りにまとわりつき、ときに緩んでさらに奥に受け入れ、押し寄せる波のようにとめどない快感を生み出す。 「虎哥、……嫌じゃない? 気持ちいい?」  尋ねると、虎哥は動くのをやめた。  俺は震える脚をゆっくり動かして、虎哥の腰に回す。まるで子どもが全身を使って大人に抱きついているみたいだ。離したくない。離さないでほしい。 「俺、すごく気持ちいい。だから、虎哥にも最後までしてほしい」 「ああ。気持ちいい。心配するな」 「よかった」  虎哥が気持ちいいと感じてくれている、そのことに好きな気持ちが受け入れられていると思えた。  再び硬くなって持ち上がった自分のものが、虎哥の腹筋に擦れている。たとえ血がつながっていなくても、父さんを好きになるなんて許されない、自分の欲望がおぞましい、そんな罪悪感が薄れていく。  こんな自分を、虎哥は、父さんは、受け入れてくれた。今だけかもしれない。それでも、今抱かれていることがとにかく嬉しかった。  安心してぎこちなく腰を上下に振ると、虎哥もまた突き上げてくる。肌がぶつかる音、潤滑剤と体液の湿った音、どちらのものか分からない乱れた呼吸、喘ぎ声が部屋に響く。  虎哥の腕が俺の両肩を掴み、ぐいと下に押さえつけた。重い衝撃と同時に激しい快感に貫かれる。腰と脚が痙攣して何度も跳ねる。うまく体が押さえられなくて、快感で打ち震えてしまう。  いつの間にか泣いていたみたいだ。視界が滲んでいる。目を大きく開いても、目の前が白い光でちかちかしてよく見えない。 「十二、もう少しだ」 「っ、ひっ――! あ、あんっ……、ぅああ……と、父さん、おねがい、はなさないで……好き……!」  何度も奥を昂りで突き上げられ、掠れた声でほとんど叫んでいた。首に乱れた吐息が触れた。 「あ、虎哥……」  煙草の匂いがした。首を噛まれた。痛みは鋭い熱に、快楽に変わった。そして、ぐんと一際深くまで突き上げられる。 「んっ、ああ゛っ――! 虎哥、父さんっ……とうさん……!」  縺れる口で何度も呼ぶ。どくどくと自分のものから精液が溢れる感覚と一緒に、快楽に溺れたように全身が弾けた熱で痺れた。 「十二っ……」  耳元で虎哥の声がした。痙攣していた中が切なげにきつく締まった。体内で昂りが小刻みに震えて、奥を押し上げる。熱いものが迸り、満たされる感覚に呻く。目を強く閉じ、必死に虎哥に抱きつく。涙が滲み頬に落ちていく。  熱い。気持ちいい。好きだ。  満たされた心地よさと、虎哥が傍にいる安堵に沈むように、俺の意識はぐらりと揺れて、ぼやけていった。  軽く気を失ったあと、意識はすぐに戻った。虎哥と話したいことがたくさんあったけれど、頭がぼんやりしていて、言葉が出てこなかった。雨の音を聞きながら俺たちは浴室に行った。  そこでシャワーを浴びて、ようやく頭のぼやけた具合が流されたらしく、何を話したいのか、どんなことを言いたいのか分かった。虎哥に正面から支えてもらって、中に残っている潤滑剤と精液を洗い流してもらっている間、話しかけた。 「虎哥、嫌じゃなかった?」 「俺に聞くのは筋違いだ。お前は嫌ではなかったか」 「全然。嬉しかった」  虎哥の肩に顎を置いて、水音の隙間を縫うように話す。虎哥の静かな声も、俺の耳に届いた。中を慎重に探る虎哥の指は、俺がもう感じないよう気遣っている。さっき俺が意識をなくしたのは、虎哥は自分のせいだと責めているみたいで、もしまた抱いてもらうことがあれば、絶対に意識を手放さないと密かに誓う。 「っ、ぅ……ぁ……」  中で指が大きく曲がった。湿った肉壁が割り開かれ、どろりとした液体がどろりと流れ落ちてくる感覚がする。膝が揺れ、腰が震える。虎哥が俺の脇に腕を回して支えてくれる。俺も虎哥の首に両腕でしがみつき、走りかけたわずかな快感に耐える。腿からふくらはぎに生温いものが流れ落ちていく感覚がする。白濁混じりの液体が脚を伝い、浴室の床を流れていくのが見えた。  とてもはしたなく、さっきまで虎哥に抱かれていたことを思い出してしまう。思わず息を飲んだ。下腹部に残った鈍い痛みが、疼くような熱に変わりかけそうだ。慌てて顔を背ける。 「十二、大丈夫か」 「うん。俺は大丈夫」  顔を上げて答えた。虎哥の肩に何本も赤い線が残っているのに、気がつく。俺はその跡をなぞり、虎哥にもたれかかった。 「ごめんなさい、虎哥。これ、痛かった? 傷がついてる」 「痛みはない。お前の方が大変だっただろう」  虎哥の大きな手が、臍の下あたりを何度も撫でてくれる。 「でも、傷つけるつもりなんてなかった。本当に。ごめんなさい」 「謝るな。そんなことは分かっている。俺が手荒にやったせいだ。昔負った傷と比べれば、ずっとかわいいものだ」  そう言われて、ほんの少し呼吸が苦しくなった。すぐにふうと息を吸って、呼吸を落ち着かせる。 「うん、浅い。すぐに治って、跡も残らないはずだ。深くないから」 「そうか」  虎哥の肩や背中に残った傷を指でなぞる。背中の虎の入れ墨に傷はなく、それだけは幸いだった。背中に残った古傷も変わらずにずっとある。  この古傷の方が、俺より虎哥との付き合いが長いのだ。俺と虎哥の付き合いの方が長くなることは、決してない。  嫉妬に近い、もどかしい寂しさ。どうにもならない、どうしようもない情。こんな古傷に嫉妬するなんて、どうかしている。虎哥だって、負いたくてこんな傷を負ったわけじゃない。それでも、誰が残したんだ、誰が傷つけたんだと、ひどく苛ついてしまう。やったやつを探して、刀で切ってしまいたいくらいだ。たぶん、虎哥を傷つけたやつらは、もうとっくに生きていないだろうけど。 「どうした」 「一応、傷が深くないか確かめてただけ」  頷く。何かを諦める。こんなに素早く諦められるなんて、俺も大人になったのかもしれない。顔を上げて、虎哥の顔を見る。 「そろそろ出よう。歩けるか」 「肩を貸してほしい」 「分かった」  虎哥はシャワーをとめた。外からかすかに雨の音がする。 「一緒に寝ていい?」 「俺の部屋に連れて行ってやる」 「ありがとう」  虎哥に肩を貸してもらって、浴室を出た。寝支度をして、虎哥の部屋のベッドに横になる。もう夜は遅い。部屋の明かりを消すと、静けさがはっきりした。俺たち以外は誰も家にいないから、通りの車の音と雨の音、服とシーツが擦れる音くらいしか聞こえない。俺は手探りで虎哥に寄り添い、胸元に潜り込む。頭上から、困ったやつだと笑いながらぼやく声がした。 「虎哥、俺、いつになるか正式な手下になる。なれるよう頑張るから、待ってて」 「何を待つ。黒社会に向いていれば、いずれは正式に加えてやる。俺は、荒事が向いていないか、黒社会から出た方が生きやすそうな者を、手元に置かないだけだ。無駄死には、好きではない」 「分かってる。俺が向いてないって思われたなら、受け入れるつもりだ。……でも、もし正式に虎哥の手下になれたなら、そのときは、俺と付き合ってほしい」  喉の奥が乾いて、出た声は掠れている。恥じらいと緊張が詰まった声だ。 「どうした、まだ物足りないか」  余裕が漂う穏やかな虎哥の声に、顔がたちまち熱くなる。 「違うって言ったら嘘になるけど、そればっかりじゃない。また抱いてほしいから、付き合ってほしいわけじゃない。俺は虎哥が好きっていう気持ちがどんなものか、自分でもまだ分かってない。でも、こういうことをした相手とは付き合いたいんだ。何もなかったみたいに、前と同じ関係に戻るのは気が引ける」 「好きにしろ。だが、正式な手下として認めるまでに、他に好きな相手が見つかるかもしれない。今約束しても、俺と付き合う必要はない。そのときは、今日したことはただ一時の気まぐれだったと思え」 「思わない。他に好きな相手も見つけられない。だから、俺が正式な手下になったときは、付き合うか考えてほしい。責任なんて取れるわけもないけど、これが俺にできる一番誠実な選択だって、そんな気がした」  ふう、と虎哥の溜め息。雨の音。はやくなっている自分の心臓。声が途切れて、静けさが続く。静かな時間に体が強張っていく。 「考えておこう。俺も責任を取るなら、お前のしたいことに付き合うべきだ」 「別に、虎哥に責任を負わせたいわけじゃ……」  突然頭を撫でられて、言いかけた言葉を飲み込む。 「俺はお前の親だ。お前だけのせいにはしておけない。自分だけで背負うな」 「分かった。虎哥、ありがとう」 「正式に手下にしたときは、新しい呼び名がいるな」 「どうして? このままでいい」 「せめてもの贈り物だ、節目にもいい。十二少、はどうだ? もっと仰々しいのがいいか」 「虎哥が呼びやすいのがいい」 「十二少。これが慣れていていい」  腕を虎哥の背中に回して抱きつく。温かい。やっぱり大好きだ。 「そう呼んでもらえるよう、頑張る。その呼び方、忘れないで」 「俺が忘れる前に、手下になれ。今日は疲れただろう。もう寝なさい」 「うん、おやすみ」  おやすみと返ってくる代わりに、頭や背中を撫でられる。大きな手で撫でられると落ち着く。よかった、嫌われていない。  目を閉じて、虎哥の胸元に額や頬を押しつける。  疲れや怠さが眠気と一緒にやってきて、すぐにまどろんでいく。 「虎哥、朝……起きたら、俺も起こして。一人にしないで」 「大丈夫だ。置いていかない。置いていったことがあるか?」 「ない。そうだ、一緒に寝たとき、虎哥はいつも俺を起こしてくれた」  するりと緊張が解けて、心地よい眠りに沈んでいく。眠っても、目が覚めても、もう不安はない。目を覚すときは、虎哥がいてくれる。また虎哥とすぐ会える。  そのときを信じて待っていられるのは、いいことだ。






公開:2026年10月4日

更新:2026年10月4日

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