サンプル
虎穴で飼われる仔は虎をのぞむ
『虎穴で飼われる仔は虎をのぞむ』サンプル(※本は縦書きのため、一部サンプルと記号等が異なります。)
「誘い差し出す」(書下ろし)
二
シャワーで全身を洗い流していく。今日の昼間は廟街を駆け回って、賃料の回収や新しく開店する店への仕入の仲介、はてには近所で家出をしていなくなった子ども探しまでやっていた。夕方になってやっと、いなくなった子どもが廟街の路地裏で背中を丸めて座っていたのを見つけて、帰ることができた。仕事に出て帰るまで休む時間がなかったから、虎哥の真似をしてつけた香水の匂いは汗でほとんど消えて、髪も手櫛で適当に整えるくらいしかできなかった。
今日はなるべくお洒落をして虎哥のもとへ帰りたかったけれど、そんな余裕はどこにもなかった。仕方がない、忙しかったせいだ。めかし込んだ髪型も香水もないけれど、抱かれる前にせめて体を綺麗にしていいところを見せたい。いつもより入念に髪を洗い、耳の後ろから項、背中まで丁寧に洗い流していく。最後に頭からシャワーを浴びて体に残った泡を流していると、浴室の扉が開く音が聞こえた。片目を開けて、顔を向ける。仕事を終えた虎哥が近寄ってくる。
「虎哥、来てくれたんだ」
つい飛びつくと、困ったように背中を軽く叩かれた。
「体を流させてくれ。そうしないと、お前をさらに待たせる」
しぶしぶ離れて、シャワーを虎哥に譲る。でも、素直に譲るのは癪だった。もっと虎哥に構ってほしい。一ヶ月ぶりに寝るというのに、いつもと変わらない虎哥に拗ねているのもしれない。
「虎哥、洗ってほしいところがある」
答えを待たずに、虎哥の手を取る。脚の間に手を引いていって、指を奥の隙間に触れさせる。
「してくれない? 久しぶりだから、一人で準備できたか分からない」
「どこで覚えた、こんなこと。そんなふうに育てた覚えはない」
溜め息をついた虎哥に、肩を竦めて大袈裟に首を傾げる。脚を開いて、さらに強く手を握る。
「やりたくない? こんな俺は嫌?」
「いや、自分の子がどこで覚えてきたか、気になっただけだ」
指が隙間に少しずつ入ってくる。いつも見ている虎哥の手を思い出して、背中がぞくぞくする。呼吸が浅くなる。
シャワーのお湯が中に入ってくる慣れない感覚に、さらに興奮する。
「痛くないか」
「大丈夫。さっき、自分でもやったから」
返事をすると、もう一本指が縁を撫でて、ゆっくりと入ってくる。背中を反らせて呻く。指が奥に入るだけで気持ちいい。もっと奥を突いてほしい、早く昂りで満たしてほしい。腰が揺れそうになって息を飲んだ。
「ん、ん……ぅっ……」
「もう感じているのか」
「っん、うん……! あ、あっ……!」
腹側をぐいと押し込まれて膝が震えた。心臓がどくどくと鳴っている。下を見る気になれない。自分のものが硬くなって、欲望を主張しているのが明らかだ。唇を噛んで荒い呼吸を必死に押さえていると、ずるりと指が抜かれた。
「ここで楽しむつもりはない。続きはベッドだ」
「……分かってる。待ち遠しくて先走った。ごめん」
虎哥の肩に寄りかかって呼吸を整える。
「気にするな、かわいいものだ」
「また子ども扱い?」
「事実だろう。こんな淫らなことを覚えたとは、知らなかったが」
耳元で囁かれた声はとても色気がある。嗄れた声を聴くだけで、腰の奥が痺れるように疼く。俺だって虎哥がどうやってこんなにかっこよくなったのか知らないのだから、お互い様だ。そう? となるべく色気を含ませて囁き返す。
「九龍城砦にいる四仔のところで、いろんなビデオを見せてもらったんだ。あと、廟街のクラブやバーに顔を出せば、色恋沙汰からちょっと変わった遊びまで、いろんな人が聞かせてくれる」
「変な相手と付き合ってはいないな?」
「嫉妬してる? 俺が虎哥以外と付き合って遊んでないか、って」
頬を軽く叩かれた。くだらない冗談はやめろということだ。虎哥の胸元から体を離し、首を振った。ふんと鼻を鳴らした虎哥へにやりと笑い返し、浴室を出る。
「先に出て待ってる。よく慣らして待ってるから、虎哥は好きにしてくれ」
「言ったことを忘れるなよ」
俺をまったく見ないで、返事だけがあった。大人のかっこよさだ。虎哥はやっぱりかっこいいなと口元が緩んだ。
水が流れる音を背に、全身をタオルで拭いて髪を乾かす。タオルを腰に巻いて出ようとしたとき、籠に入った虎哥のシャツに気がつく。子どもの頃、こっそり虎哥の服を着て一人で抜いていたことを思い出す。罪悪感に口が歪んだけれど、このシャツを着て待っていたら驚くだろうか、虎哥が好きなのを見せつけたいと、いたずらしたい気持ちが湧き上がる。
籠からシャツを取って急いで着る。シャワーの音がまだとまらないでくれと祈りながら脱衣場を出て、虎哥の部屋に飛び込んだ。逃げるようにベッドに寝転がり、毛布を腰にかけた。シャツ以外は何も着ていない、明らかに誘っている格好。虎哥はどんな顔をするだろう、楽しみで仕方がない。
深く息を吸う。逸る胸の内を抑えて、ベッドの傍の棚から潤滑剤を取り出す。手のひらと指に潤滑剤をまとわせて、体温を馴染ませる。毛布の下に手を入れて、脚の奥を探る。さっきまで虎哥の指が入っていた場所に指を入れ、中を広げるように指を曲げる。潤滑剤をゆっくりと中に注いで広げていく。早く抱いてほしい、虎哥で満たされたい。呼吸はいつの間にか荒く、昂りが膨れ上がっていた。虎哥と約束した日から抜いていないせいだ。これ以上やると、一人で達してしまいそうだと指を抜く。
「っぅ……、ふう」
端ない声が出る。目を閉じて、ベッドに横たわる。興奮しすぎているのか、明かりがやけに眩しい。頭に腕を置いて光を遮る。じっとしているとまた指で体内を掻き混ぜて、腰を振ってしまいそうだ。虎哥が来るまであと少しだ、大人しく待ってろ、自分に溜め息をつく。シャツの襟を引っ張って、顔を埋める。煙草と線香、虎哥の汗の匂いがする。俺が一三のときと変わらない、好きな匂いだ。早く虎哥に触れたい。
廊下から扉が閉まる音が聞こえた。ぱっと目を開けて、慌てて体を起こす。廊下を歩く音がして、部屋の扉が開く。
「虎哥、待ってた」
バスローブを羽織った虎哥が俺を見ている。顔が熱い。そっと毛布を捲って脚を広げる。
「準備しておいた。早くしよう」
「その服はどうした」
「このシャツは、虎哥のだ。浴室にあった。懐かしくて着てみたんだ。どう? そういえば、俺を初めて抱いてくれたとき、服をくれたよな」
似合ってるだろ? そう言って笑うつもりだったのに、ベッドが勢いよく沈む感覚と一緒に体がベッドに倒れ込んでいて、言葉が詰まった。
目の前には虎哥がいて、俺の脚を抱えてさらに広げている。
「こんなことをされると、押さえきれない」
「え、何を?」
間抜けな答えだ。腰を捩って体を起こそうとする。けれど、脚は虎哥の肩に置かれて、腰を強く掴まれて起き上がれなかった。急に何をされたんだ? 混乱したまま虎哥を見上げる。でも、何の返事もない。代わりに、熱い昂りがあてがわれ、勢いよく体を貫かれていた。
「あ゛あっ! んん゛……んうっ、ぁっ……、あ!」
腰が跳ね上がる。大きい、苦しい、熱い、気持ちいい。
重なり合った腰と奥まで受け入れた昂りの圧迫感に、頭がくらくらする。喉が引き攣ってうまく呼吸ができない。
昂りを奥へ奥へと押し込むよう、小刻みに昂りが前後に動かされる。潤滑剤と体液の混じった湿った音と、肌がぶつかる音に耳が熱くなった。
「うぁ、ああっ……虎、虎哥……!」
「そんな誘い方、どこで覚えた。俺以外の誰かと遊んだのか? 他に付き合ってるやつがいるのか?」
耳たぶを噛まれた。答えろと迫られている。必死に口を開く。
「どうして、何で……? そんなことしない、絶対に」
「俺の服を着て誘うなど、誰に教わった。単に思いついただけか?」
「思いついたからしただけ、信じて。虎哥の匂いも、好き、だから、着ただけ」
「……それならいい」
「虎哥、俺のこの格好、好きなのか?」
「ああ。お前と同じで、初めて抱いたときのお前を思い出す」
シャツの裾が持ち上げられた。空気に触れて少し冷たい。腰から下腹、臍、胸元まで手がたどっていく。胸を揉まれて、腰と腹がひくひくと震えた。くすぐったい。
「虎哥、そこ、くすぐったい。ひっ、ぅぁ、ああっ」
爪で胸の先を引っ掻かれる。かすかな痛みが混じったくすぐったさには、甘い熱がある。
「何、虎哥、ぁんっ、んぅ、うっ……!」
片方の乳首を舐められ、片方は指で何度も摘まれる。慣れない感覚が徐々に快感に変わっていくのに耐えられず、いつの間にか虎哥の下で腰を振っていた。俺の昂りは虎哥の腹に擦りつけられ、焦れったい快楽に全身が焼けるように熱くなっていく。
胸を強く吸われて、腰が浮いた。絶え間なく吸われた胸からやっと口が離れて、息をついた。でも、すぐに噛まれて、また呼吸が乱れる。噛まれるたびに、わずかな痛みと鋭い快感が胸に押し寄せて、ぞくぞくする。柔らかく、強く、強弱をつけた甘噛に翻弄されて、喘ぎ声は縺れ、腰は本能のままに揺れていた。
「ひっ、うあ、あ! くっ、ひ……虎哥……」
「気持ちいいか」
甘噛みがやんで声がした。虎哥は体を起こして、俺を見下ろしている。頬や目元が赤くなっていて、鋭い色気が漂っている。いつもなら、絶対に見られない表情だ。
「いい、気持ちいい。もっとして、虎哥」
下腹を撫でて、虎哥をねだる。皮膚を通して感じる虎哥のものに、息を飲む。激しく奥を突いてほしい、早く達したい。虎哥にも気持ちよくなってほしい。
「俺の好きにしていいか」
「して、おねがい。虎哥、好き」
「いい子だ」
腰がわずかに引かれて、奥まで貫かれる。久しぶりに奥まで開かれ、貫かれる感覚につま先が丸まった。
「んぐっ、うう、ぁあっ……! 気持ちいい、虎哥……父さん、もっとして、奥、いいっ!」
ずるりと昂りが引き抜かれて全部抜けてしまうと思った空白感の直後、一気に奥まで抉られる感覚に仰け反る。腰を突き出し、夢中で振った。奥を思いきり突かれるたび鈍い痛みとそれを上回る快楽で、目の前がちかちかする。
「虎、虎哥、ひっ、ぁあ……、んっぁ……! 父さん、とうさん、ぅぁ、っ――」
頭が真っ白になったとき、がくがくと腰が震えて腹に熱いものが飛び散った。
「十二っ……」
腰を強く掴まれて引き寄せられる。首に歯が立てられる。腰の奥が熱くなった。もう少しで、虎哥も気持ちよくなってくれる。肌がぶつかる湿った音にすら、耳が焼けそうなほど興奮する。腹筋が蠢き、縁はさらにきつく昂りを咥え込んだ。体が、本能が、虎哥の精液を中に出してほしいと求めている。
「ん、んっぅ、う……っ」
奥を何度か押し込まれると呻き声が出た。涙で滲む視界で、虎哥の背中に腕を回してしがみつく。ぐっと首を噛まれると同時に、中で熱いものが迸り、奥が満たされていく。目を閉じて、浅い呼吸を繰り返す。虎哥と触れているところが熱い。
「十二」
目を薄く開ける。顎を摘まれて、顔を持ち上げられる。口の端に指がそっと差し込まれる。口を開くと、柔らかい感触と煙草の匂いが口に入ってくる。
入った舌をねだるように舐め、吸うと、虎哥の喉が笑って鳴った。獣の唸り声のようだ。舌を軽く噛まれて、窘められる。舌を思わず引っ込めると、虎哥の舌が喉の奥から上顎をゆっくりと丹念に舐めてくる。焦らす舌の動きに呼吸が乱れた。
「ん、んっ……、ぅっ……んっ……」
まだ虎哥のものが入ったままの中が蠢き、締め上げてしまう。熱くて硬いものの形が分かってしまいそうなほど、昂りに肉壁がまとわりついている。
「んぅっ……! ぁ、んっ……」
急に虎哥のものが大きくなって、奥のいいところを押し上げられる。突然の快感に背中がしなり、仰け反ったせいで、口が離れてキスが途切れた。名残惜しさと、また虎哥が感じてくれた嬉しさで、初めてやったときと同じくらい口元が緩む。
公開:2026年10月4日
更新:2026年10月4日